特別支援のクラスでこんな例がありました。朝学校の入り口でお母さんと子どもが別れます。先生が、「教室へ行くよ」と子どもに告げると、ある子どもだけ床に座り込んで動こうとしません。「何か楽しいことをしなければ」と思った先生は、教室からオモチャを持ってきました。「ほら、教室に行ったらオモチャで遊べるよ。」オモ チャを見た子どもは、喜んで教室に歩いていきました。先生は「成功した!」と思いました。次の日、また同じ事が起こりました。子どもはまた動こうとし ません。先読みしていた先生は、オモチャを持ってきていました。しかし、オモチャでは動きません。頭をひねった結果、先生は歌を歌い始めました。歌の好きな子どもは、また喜んで教室に歩いていきました。こんなことが続いて、毎日座り込んでしまうこの生徒に対して、先生は毎日色んなことをしなければならず、私のところに相談に来ました。
ちょっと分析してみましょう。「座り込んで動こうとしない」行動についてです。子どもが座ると、何が起こりますか?先生がオモチャを持ってきます。歌も歌ってくれます。毎日座れば、毎日楽しいことが起こるのです。何かおかしくありませんか?教室に行くことを拒否すればする程、子どもにとっては得になってしまうのです。逆に先生の目線から見ると、子どもを立って歩かせようと意図してはいても、オモチャを持って来たり、歌を歌うことで、その日は教室に行ってくれるので、先生にとっても一次的にはそうした方が得になってしまいます。ですから、この悪循環から逃れられないのです。
この分析に従って、「オモチャや歌を全部やめましょう。子どもが教室に行ったら、オモチャや歌を出しましょう。」とアドバイスしました。最初の日は教室に行くまでに、何分かかったと思いますか?何と1時間45分もかかりました。1時間45分もの間、私は3分おきぐらいづつ「教室に行こう」と言い続けました。子どもはその 場から逃げ出そうとしたり、ゴミ箱に手を突っ込んで遊ぼうとしたりするので、それも完全に体で阻止しました。つらい1時間45分でしたが、最後にはつまらなくなって教室に動き出しました。子どもが教室に入ったら、私と先生とで、オモチャや歌で遊んであげました。ちなみに、これまでに得られていたものが得られなくなると、一時的にですが悪化することも、研究上わかっています。1時間45分は、計算のうちということです。次の日はどうだったと思いますか?たったの15分でした。教室でしっかり遊んでやりました。その次の日からはほとんど抵抗せずに教室に向かうようになりました。先生は「魔法のようだ。」とおっしゃいましたが、これが行動科学の力ということなんです。
人によっては、「引きずってでも連れて行けばも良いんじゃないですか?」、と言われる人もいますが、幼い3歳児ならそれも可能ですね。この子はたまたま身長体重ともに非常に大きい子どもで、とてもじゃないけれど、先生一人では動かせません。将来的にも、 無理に動かすよりは、本人から自分で動くのが一番良いでしょう。大きくなればなるほど、無理強いはできなくなりますから、時間と労力がかかることになるのです。